2011年2月25日金曜日

夜と霧



第二次大戦中にナチスによる強制収容を体験した心理学者が、その体験をもとにして書いた本です。
約半世紀に渡り読み続けられている一冊です。

「自己実現」という言葉が昨今では流行のように使われていますが、そういった概念から程遠い状況にあった強制収容所という日常にあって、それでも人間を人間として保つために何が必要だったのか?
また人間が選択することの多くが大きなうねりの中では如何に頼りないものであり、しかしそれでもなお「希望を見失わないこと」が大切なのか。
実に色々なことを考えさせられる一冊です。


改めて思いますが、こういう「非常事態において役に立つ技術」はもっと重要視されるべきです。
我々は現在の状態が明日も、明後日も続くと漠然と信じていますが、昨今の情勢を冷静に考えるとそんなものは簡単に吹き飛ぶのではないか?という気がします。
「本当に大切な時に役立つ技術」というのは、身体的なものやごく個人的なものであったりするのではないかと。
戦略や戦術といった知識も大切だとは思いますが、その前に「日常的な言動」を改めていくことの重要性を改めて指摘されたように思います。


現在の自分が「如何に可能性に包まれているのか」ということを再確認できる一冊です。

2011年2月23日水曜日

創造する無意識 ユングの文芸論



ユングというとフロイトと並ぶ心理学の大家として有名なのではないかと思います。
無意識(集合意識のようなもの)を考え、そこから個々の人間が受けている影響などについて考えることによって色々な議論が進んでいきます。
本書は、その中でも芸術に関する話を根底においてお話が進んでいきます。


中々に難解で全てが理解できたわけではないのですが、現在の文明が「分かりやすい意識の世界に特化」することで成り立っていることは常々感じていたことなので、本書の中から色々と感じる部分がありました。
ユングが易経に影響を受けたらしい、というのは割と最近になって知ったことだったのですが、こう「世界的、宇宙的な存在」と上手く付き合えるようになっていくことは、実は現在のような状況においてこそ必要なのではないかと思います。
世界を自分の思うように構成していく、のではなく「与えられているものと上手に付き合っていく」感覚とでも言えば良いでしょうか。
無論、自ら切り開いていく精神も大切ではあるのですが、それだけでは物事がうまくいくわけではありません。


色々と頑張って疲れ気味な人にはオススメの一冊です。

2011年2月7日月曜日

易経



中国の古典「易経」の入門書です。
能や尺八に関するお話などを読んでいて、陰陽に関するものに触れておいた方が良い気がしたので読んでみました。
正確には読んでみた、というよりも易経のやり方で自分のことを占ってみたりしました。

中々どうして、よく出来ているツールだな~と思います。
「機」をみるために使うのですが、それが時系列に従って読み解かれていくさまは中々相関です。
また、占術の技法そのものにごく簡単な簡易版が用意されているところも良いです。

占いというと馬鹿にしがちですが、中々どうして世界の中枢では未だに「西洋科学では説明できないもの」で成り立っていることが多数あります。
そして何より大切なのは「出たものから何を読み取るか」は結局その人次第、ということです。
特に易経はそういった「読み手、受け手の解釈」が非常に問われる代物です。

当たるも八卦当たらぬも八卦、タイミングを測るのに良いツールかもしれません。

差別の民俗学



民俗学者である赤松啓介さんの差別に関する論考をまとめた一冊です。
いわゆる「常民」と呼ばれる一般的なものの見方を否定し、差別というものがどのようにして産まれ、現在にも残っているのかを色々な具体例を取り上げながら考察していきます。

個人的に非常に面白かったのは「山道」のお話でしょうか。
差別をされていた人々が使っていた人知れない山道の存在など。
歩行法による速度と併せ、このような道の存在が全国に張り巡らされていたことが当時の驚異的な移動スピードに繋がっている面もあったのではないかと。

日本においてありがたがられる「道」の考え方も、裏を返せば差別的な思想と結びつく、という辺りは指摘されてみて初めて気が付きました。
どのような物事も、評価というのは一側面だけで考えてはいけないな、と思いつつ。

2011年2月2日水曜日

日本の弓術



ドイツ人オイゲン・ヘリゲルからみた日本の弓術に関する研究書です。
弓という道具から禅、仏道に通じる方向にお話が進んでいきます。
日本における宗教書として読んでも面白いのですが、身体技術書として読んでも大変に面白いです。


例えば呼吸法。
少し抜粋すると

「あなたが弓を正しく引けないのは、肺で呼吸をするからである。
 腹壁が程よく張るように、息をゆっくりと圧し下げて、痙攣的に圧迫せずに、息をぴたりと止め、どうしても必要な分だけ呼吸しなさい。
 一旦そんな呼吸の仕方ができると、それで力の中心が下方へ移されたことになるから、両腕を弛め、力を抜いて、楽々と弓が引かれるようになる。」

腹壁を張る、というのは表層筋で固めるのではなく深層筋である横隔膜が下げられることによって張る、という理解で良いかと思います。
またこの呼吸法は尺八の「密息」に限りなく近いのではないかと。


また、弓道を技術ではなく、理屈を超越し宇宙との一体感をなすためのものであることも繰り返し指摘されています。

続編である「弓と禅」も今度読んでみようかと思います。