2010年12月30日木曜日

南の島のティオ



きっかけは合唱界ではとても有名な組曲、木下牧子さんの組曲「ティオの夜の旅」からです。
高校一年生の時に歌いましたので、かれこれ17~8年前になるでしょうか。
最近読んでいた色々な本からこの組曲で使われていた詩のことが気にかかり、読んでみたくなりました。

南の島で家業のホテルを手伝う少年ティオが出会う様々な人に関するお話が展開されていきます。
華やかで穏やかなその情景に憧れるとともに、現在はもう無くなってしまった(と思われる)その風景を思うとどことなく寂しさを感じたりもします。

十の短編から構成された本書の中でも、やはり一番の山場は最後の「エミリオの出発」でしょうか。
他所の島からきた少年エミリオは、文明に浸り始めていたティオの島の人間が忘れてしまった「一人で生きるための智慧」を色々と知っていました。
星の見方、魚の取り方、船の作り方、食物の取り方など。

本書を読んでいて改めて感じるのは「所有権」というものをどのように考えるか、です。
近代文明の根幹であり、おそらく人間が考え出した概念の中でも最大のものの一つであるこの所有権という概念について、どのように付き合っていくのか。
無論、この原題日本において「所有権をすべて放棄する」ことなどおよそ現実的ではないのかもしれません。
しかし、この「所有する」という感覚の暴走こそが、現在の閉塞感の初元にあるのではないかと思います。
以前紹介したマルセル・モースの贈与論などと併せて考えて、とても面白く感じました。


さらりと読めて、読後に気持ちの良い風を感じることができる一冊です。

2010年12月27日月曜日

なぜ「そうじ」をすると人生が変わるのか?



「気づく力」というのは、どのような物事においてもとても大切なことだと思います。
皆同じものを見ているはず、なのにその人だけがそこに気がつく。
世の中で成果を出している人の多くはそういう「気づく力」を発揮している人ではないかと思います。

本書は「そうじ」を通して「気づく力」を発揮し、そして気づいたことを「実践し続ける」ことによって成果を出すという内容の小説です。
本書の推薦人の一人であるイエローハットの創業者鍵山さんは、以前陽明学の本を読んで「掃除の習慣」を続けていたことを知りました。
「愚直に一つの物事を続けること」「分類をしないこと」など、実践的な技術として掃除は役に立します。

掃除をすることは、身体的にも効率のよい訓練になりそうです。
適度な運動、五感(視覚や触覚は非常に刺激されるかと)の鋭敏化なども期待できそうです。

未来を変えるちょっとしたヒント



未来学という「未来のことを考える学問」について平易に説明された本です。
未来学というと「未来予測」ばかりに着目するようなイメージですが、実際には「過去」「現在」とのつながりを非常に強く意識した内容となっています。

特に面白いと思ったのは「過去からの重石」でしょうか。
「自己のイメージ」という自分が自分に持っているイメージによって人がどれほど拘束され、未来への可能性を閉じているか。
「神話的観念」という大前提によって、どれほどの選択肢が廃棄されているのか。

昨今の「自分探しブーム」に強く違和感を感じているのですが、正しくこの「過去の重石」を強くしているのがこの「自己分析が重要だ」という「公理とされているもの」なのではないかと思います。

論理的思考だけでなく「思いつき」の重要性にも触れているなど、中々に面白い内容でした。
「他者からの懇請によって才能が開花する」という内田樹さんの意見とある意味真反対の部分も含みつつ、両者共に「自分が自分に持っているイメージの偏り、当てにならない部分」を取り上げているのも実に興味深いです。


死を意識することなど、未来のことを思ってこそ現在を正しく過ごしたいものです。

2010年12月16日木曜日

白川静さんに学ぶ漢字は楽しい



漢字研究の第一人者である白川静さんの教えを小中学生にも分かるように平易な文章で書いた本です。
しかし、その内容は大人が読んでも大変に面白いものとなっています。

例えば本書の中でなんども出てくる「口」という形について。
多くの人はこの形を「顔にある口」だと教わったのではないかと思います。
しかし、実際にはこの「口」は「顔の口」ではなく「神への祝詞をいれるハコ」からきているのだとか。
この「口」の形がくる文字の多くが「神」など宗教系のお話に関係してくるのだそうです。

コレ以外にもいくつかの例が紹介されていますが、そもそもの字の成り立ちを追っていくとなんとも意外な語源…ならぬ文字源が出てきます。
宗教的、呪術的、生死観、軍事関係等々、実に生々しいお話が沢山。

さっくり読めて実に面白いです。

2010年12月15日水曜日

梅棹忠夫 語る



一つ前の更新で紹介した梅棹忠夫さんの最後の著書(対談集)になります。
「歩け」「思いつけ」「みろ」「権威に頼るな」「人まねをするな」「学はまねる、まねして成長しろ」「学問は自己合理化」等々、ズバズバっと色々なお話が語られていきます。

上で書いた「人まね」「学ぶ」は一見すると矛盾であるように思われますが、そうではないと私は考えます。
技術の習得において、人間はしっかりと「学ぶ」必要があります。
その時には師匠(あるいはそうだと思う人)を徹底的にまねしなければなりません。
「知的資産の技術」の方でも紹介されていますが、技術というものはある程度「没個性的」であることが特徴となっています。
習得をすることで誰しもが一定水準に到達することができるもの、それが技術です。

問題はその技術の適用方法についてです。
その点について、梅棹さんは「人まねはするな」というお話をされているのではないかと思います。

また、芸術畑に関わる人が「科学的素養に欠けている」という点についても興味深いです。
最近よく思うのですが、「歌の技術」は存外に科学的であり技術論的であると思います。
つまり「きちんと習得すれば皆そのレベルには到達できる」はずなのです。
ところがそれをいきなり「才能」だとか「個々人のそれらしさ」という言葉で括ってしまう。
私はとてももったいないことだと思っています。


何事にも「経営的思考」は必要です。
(別に金儲けにつなげろ、という意味合いではありません。)

知的生産の技術




2010年7月に亡くなられた梅棹忠夫さんの代表作です。
出版されたのは1969年ですので、40年を経過しているのですがその内容はまるで古さを感じさせません。


本書は「ハウツーもの」ではない、と著者は指摘しています。
確かに本書の中には「カード利用法」など、具体的な技術論が書かれているので一見するとハウツー的に読めるかもしれません。
しかし、根底にあるのは「問題の提示」であるように思われます。
冒頭で書かれている「知識の獲得法の獲得」という命題に対して、個々人がどのように取り組んでいくべきなのか?
序文の最後で「考え続けることの重要性」に触れられていることからも分かるとおり、本書はあくまでも課題の提示を目的としており、自ら実行をしていくことを求めています。


現代においては紙ベースだけでなく携帯電話、スマートホンなどの活用による別の形の記録方法もまたありえるのではないかと思います。
大切なことは「記録して終わり」ではなく「記録したものをくって、回して、組み合わせてみること」です。
私自身、自分のブログをたまに読み返してみて「あ~同じところを回っているな」と諭されることもあります。


「記録」というものの使い方について色々と考えさせられる一冊です。
思考を練りあげていくための手段を学ぶのにオススメです。

2010年11月29日月曜日

贈与論



内田樹さんの本の中で何回か出てくるマルセル・モースの贈与論、原典に当たってみました。
正直、宗教系や民族系の難解な用語には中々ついていけない部分もあったのですが、やはり原典を読んでみてとても良かったです。

現在における贈与というものは「任意」や「好意」なわけですが、そうではない「義務としての贈与」というものが存在していたことが繰り返し説明されていきます。
贈与と返戻、また自分がもつ富を破壊する行為など、現在の我々の価値観からするとちょっとずれているお話なのですが、実は別の原理原則から考えるととても理にかなっているお話であることが本書を読み進めていくと分かってきます。

経済的な要素のみでなく、この「贈与と交換」という行為を通じてこそ「人間社会なるもの」が形成されていったのではないか、という全体的なお話が展開されます。

現在の諸問題の根っこにあるものを探るのにとても良い一冊かと。

2010年11月16日火曜日

戦略は直観に従う



戦略の策定というとまず「目的を決める」ことから始まり、そこから「現状の把握」「競合」「市場の動向」などを綿密に分析することで進められる、というのがオーソドックスな意見です。
しかし、実はこの手の論理の中ですっぽりと抜け落ちている部分があります。
それは「では実際に戦略をどうするのか?」という策定そのものの部分です。
どうすれば「達成可能な戦略」を策定できるのか、そのことがこの論理では説明がつかないのですね。


本書は「まず目的を定める」という従来の説をひっくり返すことから始めています。
必要なことは「機会」をきちんと捉えることです。
現実に実行可能な手段を拾い出し、そこから目的が展開していくことを提唱しています。


本書と趣旨はずれますが、アル・ライズのマーケティング論などは手法論において近似的なものがあるかもしれません。
マーケティング戦争」「フォーカス!
氏は「戦略と戦術なら戦術のほうが大切に決まっている」と言います。
「実行可能かどうか分からない話し」よりも「今できる戦術」に傾注したほうが、成果は出し易いに決まっている、という理屈ですね。


前回ご紹介しているセレンディピティなどと併せて、日々心がけることで「新しい何か」が始まるかもしれない一冊です。

2010年11月11日木曜日

セレンディピティの探求



セレンディピティという言葉はご存知でしょうか。
一番簡単な日本語では「偶然」などと訳されているようです。

歴史的な偉業や大きな成果を挙げた人の多くが「偶然の出会い」によってその結果を成し遂げていることが多いというのは、比較的よく知られていることです。
このような偶然は、実は「訪れやすい人」というものがあるようです。
そういった偶然に出会えるようになるための技術が書かれているのが本書です。
出会い、というよりも気づきという方がニュアンスとしては近いかもしれません。


論理的思考や不確実性の排除というものが求められていますが、そのようにしてマニュアル化が進んでいくことによって独創性というものは失われていくことになります。
場合によっては「不確実性を推進させる」ような技術も必要になってきます。
当然失敗はつきものですので、その失敗に対するリスク管理などを併用することで、思いもしなかった事業が展開するようなこともあるかもしれません。

二項対立の危険性や重層性思考の重要性、部分ではなく全体的な理解への示唆など、セレンディピティの世界は東洋的思想に非常に重複する部分が見受けられます。

2010年11月8日月曜日

街場のメディア論



内田樹さんの大学でのメディアに関する講義をまとめた一冊です。
冒頭、キャリア論から始まり、他者から求められることによる自己の才能の発露について触れられています。
とかく「自分の才能を活かせるような仕事」という自己決定が重要なことのように思われている昨今にあって、この他者から与えられる「贈与」のような考え方(一度マルセル・モースは読まないといけない気がしています)が少しでも共有されると、今起こっている困った現象の多くは解決に導かれるように思います。

また、少し前にご紹介した「テレビの大罪」でも出てきましたが、メディアにおける「当事者意識のなさ」には驚くべきものがあると思います。
「なんということなのでしょうか」と言っているその張本人が、実はその事態を引き起こすことに確実に加担している、あるいは悪い状況が進行していることを知っていながら見過ごしている。

本書の中で展開される「電子書籍」に関する話はとても共感ができます。
私自身、事務所には自分で大量の小さな棚を買ってきて作り上げた書棚があります。
この書棚に並んでいる本から、私は私自身からの「何か」を受け取っているのかな、とよく思います。
これはCDでも同じでして、私はダウンロードで音楽を買ったことが一度もありません。
そして、今後も買わないと思います。


「資本化」というものに関することも含めて、色々と考えさせられる一冊です。

2010年11月3日水曜日

4時間半熟睡法



以前は眠るのがあまり得意ではありませんでした。
布団の中に入っても、色々と頭の中で考え事がうずまき、中々入眠できませんでした。
こういった思考の方向については、以前ご紹介した「考えない練習」などで学んだ技術を活用しています。

しかし、それでもまだまだ睡眠に関しては「もっとどうにかならないものか?」と考えていました。
というわけで読んでみたのがこちらの本です。

とても分かりやすい理屈として「体温の差が眠りを誘う」ということが繰り返し説明されています。
つまり「寝る前に体温を一時的に高めておくこと」の重要性と、そのための手法が説明されています。
また、お酒をよく飲む人は「いつ飲んだほうが眠りに悪影響が出ないか」といった貴重な情報も書かれています。

より身体的な面から眠りを改善したい方にオススメです。

テレビの大罪



テレビというものの持つ「毒」の部分をこれでもか!という勢いで書き連ねた本です。
著者ご本人も認めていらっしゃいますが、敢えて決めつけて書かれている部分もあり、反発を生みそうな部分も多いですが「物事の多面性」というものを図ることの重要性が繰り返し指摘されています。

実は私自身、テレビを見なくなって久しかったりします。
私の中では、お笑い芸人というと波田陽区さんあたりで止まっていまして、以降の芸人さんは正直言ってよく分かりません。
テレビを見なくなった理由は、端的に言うと「気持ち悪い」と感じるようになったからです。
このように感じたのは、自分が税理士として開業する少し前ころからだったように思います。

端的に言うと、事業という「複雑なもの」を見つめているうちに、テレビで流されている様々な出来事があまりにも単純化されているのではないか?と不安に思ったからです。
特にひどいのは「ニュース番組」ではないかと思います。
極端に被害者に偏った報道、一度でも罪を犯したものを徹底的に排斥しようとする言動などは、正直に言って「度が過ぎている」し「単純化し過ぎている」と思います。

私のような「法律に携わるお仕事」をしていると、嫌でも法のグレーな部分に近づかざるを得ないような場面に遭遇します。
私は問題がない、と思ってやったお仕事の結果、ある日突然「脱税幇助」で起訴される可能性だってあるわけです。
そのときにテレビではさぞかし「悪徳税理士!」「資産家である社長のために悪の限りを尽くした、堕ちた若手税理士」だとかさんざん報道するのかもしれません。

自分がもしあちら側だったら、と少しでも想像すれば、今のテレビがどれほど怖いものかは容易に想像ができると思います。
白と黒がはっきり分けられていることは確かに気持ちが良いかもしれません。
しかし、それだけで物事を片付けていて、もし自分が突然「黒」と断定されてしまったら、どうするのでしょうか?

本書自体を批判的に論じることもまた、多面性の育成には良いと思います。
そういうきっかけの一冊になれば。

2010年11月1日月曜日

素数の音楽



リーマン予想を中心に据えて素数研究に関する歴史やそれに関わった人々に関するお話が展開されていく本です。

本書の中でも出てきますが、素数の研究などは産業などへの実用面などをあまり考慮しない純粋数学の世界で繰り広げられる、抽象的な概念のお話のはずでした。
それが、ある時期から突然に通信における暗号システムの構築に必要不可欠となり、その実理性が一気に注目されるようになりました。
同じような暗号システムとして利用されている楕円曲線暗号なども同様で、元々は数学者の頭のなかで繰り広げられる「思考の遊び、旅行」のような性質が色濃かったように思われます。


本書を読んでいると、例えば「役に立つことを学ぶこと」や「他分野とのつながりをどのように理解するのか」といった数学に限定されない「学問」「学ぶこと」について考えさせられることになります。
「役に立つことを学ぶ」
「役に立たないことも大切にする」
どちらも色々な本で紹介されている言葉ですが、その極端な例を展開している人々のお話です。

2010年10月18日月曜日

すべては宇宙の采配



すっかりと有名になられた青森のリンゴ農家木村さんに関する本です。
以前にも一冊ご紹介しました。

前回ご紹介した本はリンゴ栽培に関する部分のみが抜き出されていましたが、本書はソレ以外の「超常現象的な部分」が大きく取り上げられています。
例として「龍」「UFO」「死後の世界」などが取り上げられています。

冒頭で触れられている通り、本書の内容を絶対に受け入れることが出来ないであろう方が相当するいらっしゃるのではないかと思います。
そこらへんは個人の趣向に併せて読めば良い本かと思います。


私個人としては、ここ最近こういった「超常的なお話」はかなり自然と受け入れられるようになりました。
身体に関することを勉強し始めてより、自分の身体すらよく分かっていない人間が宇宙の全てを知っているなどと考える方がどうかしている、と強く感じています。


「異なる時間軸」の話など、非常に興味を惹かれました。

2010年10月14日木曜日

音楽家ならだれでも知っておきたい「呼吸」のこと



タイトルに騙されてはいけません。
この本は「すべての人」におすすめできる本です。

本書は「人間が呼吸をするときに、身体はどんな動きをしているのか?」ということが丁寧に解説されています。
呼吸をしない人はいません。
つまり本書は「すべての人」に関係のあることを書いているのです。

我々は長年聞き知ってきたことによって「誤った身体感覚」を身につけてしまっています。
例えば、息を吸う時と吐く時ではどちらの方が背骨が伸びていると思いますか?
この質問に対して、多くの方が「吸っている時の方が身体は大きくなる」と答えられるのではないかと。
(実際には、脊椎は吸うときに縮み、吐くときに伸びます)

何か特殊な技術を体得するための本ではなく「本来の呼吸」を取り戻すための本です。
そして本書を読むと、如何に人間の身体が全体性で成立しているのかが改めてわかります。

図解も多く、イメージがしやすい作りになっています。
お手元に是非一冊。

2010年10月12日火曜日

音楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと



今更ながら、ではあるのですが。

音楽というものは想像以上に「身体運動的」な要素が求められています。
骨、筋肉など身体に対する意識がどのようにあるかによって、その演奏レベルは大きく変動します。

そして、我々は身体の外側からしか自分の身体をみることはできません。
困ったことに、その外側からみえる身体と実際の内側とでは大きく異なっている部分などがかなりあります。
例えば「指の関節」がどこにあるのか皆さんはお分かりでしょうか?


本書はそういった疑問に対して非常にわかりやすい「図説」がついています。
自分の関節がどこにあるのか、ということを正しく認識出来るだけでもかなり運動のレベルは変わります。


また、本書は「自分が学んだ技術」を音楽につなげるためのガイドブックとしても活用できます。
「実際に使うに当たってどう落とし込むか」といった部分を考えるのにとても役立つかと。

音楽家のみならず、身体に対する意識を高めたい方にオススメの一冊です。

2010年9月20日月曜日

表現力のレッスン



この前に紹介している「発声と身体のレッスン」と色々な部分でつながりがあります。
「体」や「声」に対する教養を身につけていくための手法が紹介されている本です。

表現している内容ではなく、表現そのものが魅力的であるがゆえに成果が出てくる、ということはままありえることです。
また、普通は「感情から表現が産まれる」という理屈の方が語られますが、本書では「表現をすることで感情が産まれてくる」という方向の話が何度も出てきます。
例えば声を5つの要素に分割し、それぞれの要素をどう変えるとどんな感情が出てくるのか?ということを表現の技術側から捉えていくわけです。


演劇を目指す人に向けた本ではありますが、ただ、身体に関する意識を高めたいときにはとても良い本なのではないかと思います。

2010年9月11日土曜日

発声と身体のレッスン



鴻上尚史さんが書かれた「基本的には演劇を志している人向けの本」です。
とはいえ、本の中でも触れられていますが、人前に立つことが仕事になっている人にとっては、発声と身体に関してのレッスンを積むことはとても意義のあることだと思います。
よく「言っていることは良いのに説得力がない」という人がいますが、それなども「発声」やそれに対応するための「身体技術」を手に入れていれば、相当に改善することができます。
海外の政治家などが必ずヴォイストレーニングなどを受けているのも、そのような理由です。


本書は大きく分けて「発声」と「身体」に関する内容に分かれます。
そしてこの二つは不可分なものであり、「発声」に適した「身体」を手に入れるために必要な技術が関連性を持ちながら展開されていきます。


身体に関する技術については「外側」と「内側」に分けて考えられています。
ただし「外側」(具体的に格好良く魅せる方法など)については本当に簡単に触れているだけで、そのほとんどが「内側」に対するレッスンのために割かれています。
具体的には「リラックスした身体を手に入れるための方法」が具体的に説明されていきます。

内容としては野口体操やアレクサンダーテクニークなどの美味しい部分を色々とつまみながら勉強できる本かと。
専門的に勉強された方には物足りないかもしれませんが、それらを総合的にまとめているという点において中々に実用的な本なのではないかと思いました。

2010年9月7日火曜日

古武術介護入門



お客様に介護事業所を経営されている方がいらっしゃるのですが、そちらに置いてあったので何気なく手にとって読み始め、面白かったので自分でも買ってしまった一冊です。

古武術介護に関する6つの原理を紹介して、それを実践する具体的な技術について図解とDVDを使いながら説明をしていきます。
6つの原理とは

・揺らしとシンクロ
・構造
・重心移動
・バランスコントロール
・体幹内処理
・足裏の垂直離陸

この言葉だけでは中々分からないかもしれませんが、随所に散りばめられている「武術遊び」と呼ばれる身体を使ったテストを試してみることで、その意味が実感できるようになっています。


私自身、子供をだっこするときに「右腕」よりも「左腕」を使ったほうが疲れにくい、と感じていました。
これなどは6つの原理のうちの「構造」の話ともろに被っているように思われます。
右腕だと「腕の力」があるので腕だけで抱こうとするが、左腕の場合「腕の力」がないので身体全体を使わざるを得なくなり、結果的にそちらの方が楽になるわけです。


反動をつけず、ひねらず、溜めず、というのは日本の身体技法について書かれた本の多くで触れられている要素のように思われます。
そして、私の友人で西洋の発声について勉強をし続けている人がいますが、その人曰く現在の西洋における発声技術の最先端は正しくこの「予備動作のない動き」なのだとか。


これらの技術の多くは「部分ではなく全体を使うこと」で効率的な動きを目指しています。
「疲れやすい」とか「腰が痛い」といった症状にお悩みの方にもオススメの一冊です。

2010年8月30日月曜日

オトコの仮面消費



「女性が強い時代」と言われて久しいですが、一方で「男の存在感」は薄くなり続けているように思われています。
実際、企業のマーケティング等においても、如何に「女性を取り込めるか?」という視点から商品開発等が進められているようです。
特にこれまで男の専門分野だと思われていたような商品(車は家電製品など)においても、女性側が主導権を握るようなケースが増えているようです。


しかし、それでは本当に男は「お金を使わない」生き物なのか?
本書では「そうではない」ということを主張し、男の生態系について実例を挙げながら「男のお金の使いどころ」を探っていきます。

読んでいると「あ~そういうことあるよね…うんうん」というようなお話が続々と出てきます。

また、昨今の定説である「ニッチな部分を狙っていく」というマーケティングの常識に対して果敢に戦いを挑んでいる本でもあります。
「王道」において如何に商売をしていくのか。
それは企業の規模には関係がないのではないか?ということを考えさせられる本です。

2010年8月28日土曜日

メールの超プロが教えるGmail仕事術



今や検索エンジンとしてだけでなく、本当に多くのサービスを提供しているgoogle社。
日本ではyahooと手を組む、とのことで正にgoogle帝国、とも言えるような状況になっています。


そのgoogleが提供しているサービスの一つがGmailと呼ばれるウェブメールサービスです。
本書はそのサービスをどのように活用していくか、ということを説明している本です。

本書と面白さとして「こういう設定にするとこう使えますよ」というレベルで話を終わらせていないことでしょうか。
具体的には、Gmailを使った情報の総合管理のような方法に触れています。
主な使い方は、Gmailをストレージとして活用するようなイメージでしょうか。


クラウド、と呼ばれるものが言われ始めて少し経ちますが、これなどはそういった動きの分かりやすい例の一つなのかも知れません。

メール絡みで困っている人、情報の整理がどうも出来ていない人など。
そういう方には中々オススメの本です。

2010年8月24日火曜日

事実認定の手法に学ぶ荘司雅彦の法的仮説力養成講座



検察や弁護士、それに裁判官などの司法に関わる人々は「真実を明らかにしようとしている」と一般人は考えがちです。
しかし、実際はそうではなく「如何に説得力のあるストーリーを構築し、それを提示し、その妥当性を判断していくのか」というまるで小説家のようなお仕事をしているようです。

客観的な事実を集め、その中から確実性が高いものを選択し、そこから経験則や論理的な推認などを用いながらストーリーを構築していく手法は、非常に精密であることが求められます。
また、ストーリーを作るといっても「好き勝手に作って良い」ということではありませんし、また「相手から突っ込まれること」を前提にしながら自説を構築していかなければなりません。


本書では、そうやって緻密にストーリーを構築していく手法を経営などにおいて利用していくべきだ、という主張がなされています。
また、過去のストーリーを構築するための手法を現在から未来に向かって伸ばしていくことも有効なのではないか?と提起しています。


ストーリーの構築は、経営においても必要不可欠なものです。
そのとっかかりとして、このような「法的仮説力」を用いるのも有望な方法なのかもしれません。

2010年8月20日金曜日

数学ガール ゲーデルの不完全性定理



「数学ガール」シリーズの第三作です。
自分自身の無矛盾性を自ら証明することはできない、というゲーデルの不完全性定理に関する本です。

さて、この不完全性定理、どちらかというと「否定的な意味合い」で使われていることが多いようです。
「数学の限界」を証明してしまった悲劇の定理として扱われていることの方が多いように見受けられます。
そしてそこから拡張解釈をして「理性の限界」や「合理性の限界」に話を展開しているようなケースが多々あるようです。
私自身も、そのような意味合いでこの定理を捉えている部分があります。


と同時に、ここ最近ずっと考えている「安易な一般化」という話があります。
ゲーデルの不完全性定理は本当に「全ての合理や理性、ロジック」についてその限界を提示しているようなものなのか?
私にはその部分がよく分かっていませんでした。


本書を読み終えての感想は、やはり「安易な一般化」に対する一層大きな懸念です。
この本を読むと、ゲーデルの不完全性定理が「あくまで数学上の問題」であることや「理性や論理の限界」など対象にしていないことが分かります。


その内容の鮮烈さから非常に恣意的な利用をされているこの定理について、少し違った側面から触れてみることが出来る本です。

2010年8月9日月曜日

般若心経は間違い?



般若心経という経典については、本当に様々な解説書が出されています。
非常に難解、かつ色々なところが省略されて書かれていることからその意味を理解するのが難しいというのが一般的な理解のようです。


本書は、そういった「般若心経」について別の視点から分析をしています。
般若心経の元ネタとなったであろうものから解読を進めるのです。
その結果は・・・是非本書をお読みになって確認してください。
おそらく「日本の多くの仏教徒」が「え~~~~!!!!!!!」と言う事請け合いの結論が出てきます。


本書を読んで改めて感じられるのは、仏教という哲学が非常に科学的に出来上がっていることです。
「迷信」と呼ばれるような類のお話がほとんど存在しません。
生命に関する定義、起こっている事象に対する理解など、非常に合理的な思想を一貫して通していることが分かります。


物事の無常観、一切は苦であるという思想。
そして「役立つことしか話してはいけない」という徹底した合理主義の追求。
案外と、仏教のようなツールの方が昨今のご時世には「使える場面」が多いのではないか?とすら感じさせる一冊です。

2010年8月3日火曜日

史上最強の哲学入門



「哲学的な何か」というシリーズで有名な飲茶さんの著作三冊目です。

ここ最近、色々な機会に主張していることなのですが、哲学というものは非常に「実践的」なツールだと私は考えています。
昨今のような「何がなにやらよう分からない状態」にあって、自分の寄る術があるということは、それだけで大分生きやすくなるのではないかと。

哲学というものが「あまりにも大仰で」「難しく」「自分には関係のないもの」と切り離してしまうには、あまりにももったいないと思います。
平たく言えば、マネジメントやマーケティングの発想法だって、根幹には哲学(宗教的なものも含む)が存在しているのです。


本書は、その哲学についてエンタテインメント性を交えながら、歴史を追うのではなく「項目別」に体系立てて解説することで「哲学の使い方」を説明してくれます。

今のあなたにとって、哲学があまりにも遠い存在ならば、是非手元に一冊。

2010年8月1日日曜日

数学ガール フェルマーの最終定理



以前にご紹介した数学ガールの続編です。
今回のメインテーマはかの有名なフェルマーの最終定理。
数式としては非常に分かりやすいこの定理なのですが、その証明がなされるまでには本当に多くの方向への試行錯誤が必要でした。
また、その努力が連続した形というわけではなく、まったく別の道を歩いていたはずの人たちがふとしたきっかけから合流することになった経緯など、実に多くのドラマが生み出されることになりました。


「異なると思われていた分野」が根っこのところでつながっているのかもしれない、というのは多くの学問においてあることです。
ただ、安直に結びつければ良いというものでもありません。
そこに至るまでの間に「本当にこれは同じ根っこをもつのか?」ということについて、慎重にも慎重を重ねた上で結び付けなければなりません。
そうでなければ、あらゆる課題についてなんでも「あ~これはアレと一緒だね」という安直な決めつけで解決を図りかねません。


フェルマーの最終定理についても、結びつきが美しいのはもちろんなのですが、実はそこに到るまでの「前提を巡る試行錯誤」が重要なのではないかと思います。

2010年7月25日日曜日

図解雑学 ギリシア神話



知っているようで知らない、知らないようで知っている。
(恥ずかしながら、私なぞもその典型です)
多くの日本人にとってそんなお話の筆頭にも挙げられる「ギリシア神話」に関する入門書です。

多くの漫画やゲームなどにおいてギリシア神話は元ネタで使われているので、本書を読み進めていると「あ~アレの元ネタってこれだったのね。」と分かることが多々あります。


このギリシア神話のような世界は、特に欧州の人などにとっては非常に馴染み深いお話ですので、当然のことながら彼ら、彼女らの思考論理の形成に影響を与えています。
ヨーロッパのお話、アメリカのお話、中国のお話、壮大さは同じようでもその趣は大きく違うように感じられます。
そしてその傾向が、今持って現代における思考方法の差異につながっているのではないかと。
そのような差異が、歴史的な事実だけではなく想像上の話などもベースにしていることは踏まえておいた方が良いのではないかと思います。
(欧米発祥の哲学の中には、ギリシア神話から発想を得ているものなどが沢山あります)

一つの「知っておいて損はない雑学」として。

2010年7月20日火曜日

世界は分けてもわからない



先日ご紹介した「生物と無生物のあいだ」の著者福岡伸一さんの書かれた本です。
前著と明確なつながりを感じさせる内容となっています。


切り取られた絵画、実験的映像などをモチーフにして科学主義の進展により「生命」や「時間」を分けて分析しようとする行為に関する言及がなされていきます。
前著からひき続いて問われているのは「全体性」と「流動性」なのではないかと。


それでも、科学的な思考を志す現代にあっては「世界を分ける」ことでしか世界に近づくことはできないわけです。
その辺りの「分子生物学者」としての立場と、そうではないもっと「生き物」としての立場と、そういったものの矛盾と両立がまるで小説のように展開していく本です。


事業におけるマーケティングなどについても、こういった感覚を持ちあわせておくことは大変に有用なのではないかと考えます。
とかく視野が狭まりがちな昨今における一つの処方せんとして。

2010年7月19日月曜日

従業員7人の「つばめや」が成功したたった1年で5000万円売上げを伸ばす仕組み



渋谷にある老舗文具店である「つばめや」のウェブマスターである著者が、小さな会社が生き残るためにウェブにおいてどのようなマーケティング手法を実践していけるか?ということをまとめている本です。
著者は名刺のアドバイサーとしても著名な方です。


本書の特徴としては、ともかく実践的なことです。
小売業からサービス業まで、小さな会社の経営に携わっている方ならばどなたでも活用できそうなお話が相当コンパクトにまとまっています。
私自身もとても参考になるお話がありました。

また、ツイッターに関する考察もとても分かりやすいかと。
ツイッターについて「イマイチどうして良いのか分からない」という方(私もそうです…)には、そのイメージを掴むのにとても良い本かと思われます。



何から始めるのか。
そのとっかかりを掴むためにはとても良い本かと。

2010年7月17日土曜日

雑誌のカタチ 編集者とデザイナーがつくった夢



私が愛読している「週刊アスキー」の中で毎週面白いコラムを書かれている山崎浩一さんが「雑誌に関する話」を雑誌に連載したものをまとめたものです。


雑誌、読んでいますか?
おそらく「何も読んでいない」という人が相当数にのぼるのではないかと。
また、最近の雑誌はその多くが「こういうことのために役立つもの」とその目的を絞る傾向にあります。
しかし、その方向性を目指してしまうと、結局はウェブというツールに駆逐されることになるでしょう。

本書の中でも触れられていますが、雑誌にとっての要は「雑」な部分なのだと思います。
決して「純」ではなく「雑」な部分にこそ、雑誌が雑誌というメディアとして存在する意義があるかと。


「自分が興味あるものにだけ触れていく」ことに対する一つの啓示として。

2010年7月14日水曜日

これからの「正義」の話をしよう



「正義」というものについて古今の西洋哲学者などがどのように考えてきたのか。
それを「歴史年表的」に追うのではなく、幾つかの「異なる立場」から類型化して紹介している本です。


幸福の最大化が良いことなのか?
選択の自由を確保することが大切なのか?
共通認識としての「道徳や美徳」を育成し、そこに根ざして生きることが望ましいのか?


まず、本書を通じて私が感じたことは「西洋人の西洋人たる所以」です。
本書はある意味、日本人には決定的に欠けているものを提示しています。
それは「世界のありようを決める」ということです。

この点につき、私は「だから日本人は駄目なんだ」という結論を出すつもりはありません。
むしろ「だからこそ良い」という思いを持っている人間です。


本書を読んだ上で改めて「日本が世界でスタンダードや主導権を握ることは無理だし、また、握る必要もない」という結論に私は達しました。

皆さんはどんな感想を持たれるでしょうか?
色々な意見が出てくる本だと思います。

2010年7月7日水曜日

生物と無生物のあいだ



貝殻と石ころのあいだにある違いはなんなのか?
生命があるものとないもののあいだにあるものはなんなのか?
本書はそんな疑問について、生命を一つの系(システム)と捉えてその特徴を明かしていきます。


この中で触れられているのは、生命が「大きな流れ」をもつ「時間軸を一方向にたどりながら折りたたまれている存在」だと捉えられています。
生命の中にある物質が好き勝手に動かず、一定の秩序をもってその形質が保たれているのは生命のもつ大きさと流動性がポイントになっているのです。


生命がどこまで機械と異なるのは、生命はパーツごとに細分化して考えることがあまり意味を持たないケースがあることです。
機械ならば「あのパーツを交換すれば機能が良くなる」といった議論もできますが、生命ではそのような「部品で捉えた理屈」は通用しないのですね。


エピローグでは「自然の流れ」の大切さが改めて指摘されています。
人間が生命を支配する、という内容ではなく「如何に生命というシステムが優れているか」という生命賛歌のための本です。

2010年7月4日日曜日

天風先生座談



ヨガ哲学に基づき構築された「心身統一法」という考え方に基づき多くの人に支持された中村天風さんの講演内容を作家の宇野千代さんが文章化したものです。


天風哲学と呼ばれる「心のあり方を中心にした人生の考察」について、その内容がざっくりと把握できるような本です。
「まず心ありき」ということを把握した上で、心から身体にフィードバックされることが確認されていきます。


「水が満タンに詰まった瓶」に新しいお湯を入れようとしてもこぼれてしまって入らない、という例えなどは「積み重ねていけば良くなるに違いない」と思いがちな我々にとって耳が痛いお話ではないでしょうか?
「間違った前提」に基づいている限り、良くはならないと断言しています。
文明人である我々の「前提としていること」を今一度疑うことを思考すべき時が来ているのかもしれません。

2010年7月1日木曜日

図解雑学 パラドクス



「私は嘘をついている」
この言葉の真偽は?


有名なこの例を始め、数々のパラドクスについて述べられている本です。
数学、論理学、哲学、果ては政治から愛の世界まで、世界はパラドクスに充ち満ちています。


ゲーデルの不完全性定理において指摘される「自己の無矛盾性を自己で証明することはできない」ということは、昨今語られる「絶対に儲かる!!」だとか「こうすれば上手くいく!!」といった多くの自称定理と呼ばれているようなものに対する強烈なカウンターパンチとなります。


自分が今信じている常識が本当に正しいのか?
そんな世界のあり方の部分まで揺さぶってくるのがパラドクスの存在です。

考えない練習



原始仏教系の「身体技術」について述べられている本です。
宗教に関して身体技術と言い切ってしまいましたが、それくらい本書に書かれていることは「身体的な部分」との関わりが強いように思われます。


現代人が罹っている「思考病」とでも呼べるような状況についてかなり説明が割かれています。
一度思考したことが脳に残り続け、それが方は状態になったときに「痴呆」と呼ばれる状況になるのでは?という推論は私にはとても納得がいくものでした。


周囲に見えるもの、聞こえるものをそのままに受け取り、そこから思考を無駄に展開させない。
観察結果をすべて自分にフィードバックさせようとしない。
ある意味、現在言われている多くの自己啓発系書物とは真逆のことを言っているように思われるかもしれません。


しかし、実は本当に変化の激しい時代にあっては、このように「あるものをそのまま受け入れる」身体感覚を構成しておくほうが適応しやすいのではないかと私は考えます。
純粋にビジネスにも役立つ技術ではないかと。

2010年6月28日月曜日

愚の力



浄土真宗の現門主、大谷光真さんが書かれた本です。

現代に生きる我々は、常に「志の高さ」や「意志の尊さ」、「努力の必要性」などを求められ続けています。
そして「自分の人生を自分の力で切り開いていくこと」の素晴らしさが強調されます。


しかし、その方向にばかり進んだ結果、明らかに「疲れ」が出始めているのが現状なのではないかと。
厳しい経済情勢、思い通りにはならない諸々のこと。
これらのことが原因で、人はいともたやすく「絶望」や「不合理」の世界に堕ちるようになりました。


「人は基本的に不完全だよ」ということを前提においている本書のような考え方は、実は非常に理に適っているのではないかと思います。
世界と自分との関係性を感じ取り、孤独に陥らないことが生きていく上で何よりの支えになるかと。


自分の内側をゆっくりと解きほぐしたい時にオススメの本です。
是非ご一読を。

2010年6月22日火曜日

漫画 歎異抄



浄土真宗の開祖親鸞の言葉をまとめた歎異抄(たんにしょう)の内容を、分かりやすいように漫画で表現したものです。
なんでも簡単にすれば良い、という風潮はそれなりの問題を含んでいるとは思いますが、それでもそれが何かのきっかけになることもあります。
要はバランスかと。


私自身は特定の宗教に対して信心を持っているわけではありません。
ただ、本書を読んでいて非常に納得がいく言葉もありました。

第二章の「他に方法は知らないし」といった考え方。
第三章の「我々はみな揃って悪人」という考え方など。

とかく、自分が頑張れば全てを管理し、コントロール出来ると思いがちな昨今にあって、非常に救いとなる考え方のように感じられました。


「努力しているのに報われない」などの徒労感を感じている方などにオススメです。

2010年6月15日火曜日

数学ガール



数学に関する読み物本です。
一人の少年と二人の少女の関係を通しつつ、数学に関する様々な問題に挑戦していきます。
より正確には「数学に関する問題を自分たちで考え、展開していきながら、その問題を解いていく」ということを繰り返していきます。


隠れた構造を読み解く楽しさや、数学の自由さを味わうことができる一冊です。
例えば我々が教科書で教わった色々な公式(今や記憶の彼方に去ってしまった数々の…)を自分で勝手にいじくりまわす、なんてことはしていなかったのではないかと思います。
本書では「好きにやれば良い」と色々な式を思い思いに展開していきます。


連作で出ているようなので、続きも読んでみようかと思います。

2010年6月12日土曜日

宮本武蔵は、なぜ強かったのか?



稀代の剣術家、兵法家として名高い宮本武蔵が遺した五輪の書。
その五輪の書の中にある「水之巻」に書かれている身体感覚に関する追求が中心となっている本です。

身体感覚に関するお話や物理学に関するお話など、人間の体が如何にシステマティックに構成されているのかがよくわかる一冊です。


また、本書の中で提言されている「分類しない、記号論にとらわれない稽古、練習」という考え方は、現代の我々には非常に重要なことを投げかけているのではないかと思います。
「ニュアンス」「曖昧」というと現代では否定的な意味合いで取られがちです。
極論でははっきりとしないものには価値がない、という考え方がスタンダードになりつつあるかと思います。

しかし、多くの実践、そして実戦において最終的に役立つのは「型や定義」ではなく「その場に応じて動く身体」の方なのではないかと。


学び方に対する一つの考え方を提示した本として捉えても面白い一冊ではないかと。

2010年6月6日日曜日

マンガで分かる心療内科



とある心療内科の病院のHP内で連載されているウェブ漫画が単行本にまとめられたものです。
ウェブ上では結構有名な作品かと。


中々聞きづらい心療内科のお話などが分かりやすく解説されています。


受験生時代に成果が出なかったときなど、相当に落ち込む日々が続いたこともありました。
また、子育てなどで本当に悩んで苦しんだ日もあります。
良くないこと=何でも病気、という安直な決め付けも良くないとは思いますが、因果関係がある程度分かっているものを精神論だけでひっくり返そうとするのも無理があるのではないかと思います。


個人的には、女性化願望のところなどが非常に興味深いです。
感情を表に出せる機会を用意することは、とても大切なことなのだと確認。

2010年6月5日土曜日

女の眼でみる民俗学



女性の執筆陣による、女性に関する民族的な問題を取り扱った本です。
炊事や洗濯、出産や死など、女性の一生にどのような出来事があったのか。


特にこと出産ということに関して、女性は明らかに男性よりも大きな負担を強いられているわけです。
そのことの「負担感」というものに対する不公平感のようなものは、やはり以前から根強くあったのかな、と本書を読んでいて思いました。

ただ、それでは女性が一方的に負担を強いられ、虐げられていたのかというとそういうわけでもなさそうです。
一部の風習に残る「男性だけに限定されるもの」(例えば相撲の土俵には女性が上がれないなど)の原因は、女性が劣っているとか不浄である、というよりも「女性のもつ特別な力」を恐れてのことだったのではないか、という指摘もなされています。


また、炊事などを女性が担当していることについても面白い指摘があります。
炊事を任される、ということはその一家の命運を一手に引き受けるに等しい意味合いをもっていたようです。
つまり「炊事を押し付けられる」という感覚よりも「炊事を信頼して任される」という解釈に近い。


現在の我々が持っている死生観とは明らかに異なる世界。
しかし、我々はそういった死生観を捨て去り、また新しい観を育て、受け継ぐこともなく現在の世を生きているわけで。


功利主義が幅をきかす現状にあって、実は大切なのはそういう「命の客観化」のようなものなのかもしれない、などと漠然と感じました。

2010年5月20日木曜日

日本辺境論



経営の世界における「日本のガラパゴス化」という定説が言われて久しい昨今。
敢えて「それで良いんじゃね?」という内容の本がこちら。


本の内容があまりにも多彩、悪く言うと雑多なので、読み辛い部分はあるように思います。
論理の展開も、飛躍している部分があるのでその傾向に拍車はかかっているかと。


しかし、それを考慮した上で面白いと思いました。
特に「武道における機」の考え方をここまでわかりやすく書いてある本は中々ないと思います。
「敵を作らない」という考え方が、心持ちの問題ではなく「身体技法の問題」と解説しているなど、武術書では中々読み解けないようなお話がわかりやすく書かれています。
(って、このわかりやすくしようとすること自体が本書の中でも触れられていますが)


評価が真っ二つな本は面白いですね。
以前、とある出版業界の方が「そういうのが良い本だと思います」とおっしゃっていたことを思い出しました。

2010年4月15日木曜日

養生訓



ホリスティック医学(全体的医学)の推進者である帯津良一さんが書かれた、養生訓に関する本です。


養生訓とは、江戸時代の儒学者貝原益軒が書いた長寿や健康に関する書籍です。
その内容は「自分の身体に内在する生命を如何に活用させていくか」というもので、その考え方はまさに現代のホリスティック医学と同様のものです。


その内容は、ごく簡単にいえば「普段の生活習慣でこんなことを気をつけよう」というものです。
また、貝原益軒の書いた養生訓は当然江戸時代に即したものなので、それを帯津良一さんが現代に適合するような補足を加えることで、より面白い内容となっています。


そこそこ楽しみ、そこそこ節制。
無理せずに自分の生命を活用していく。


「青雲の志」について、本書の中でも紹介されています。
この言葉は別に立身出世のための言葉ではなく、生命の活用に関する言葉なのではないかと。

私は職業会計人ですので、数字のことを無視するわけではありませんが、数字以外の面についてもお客様がより良い生活を送れるような仕事を心がけたいものだ、と思います。

身体論 スポーツ学的アプローチ



身体論に関する歴史的かつ多面的な分析を試みている一冊です。
舞踏と武道、その同根性や近代における身体概念など、とても面白く読めました。


他者肯定、祝祭的なものの存在、理性や合理とのバランスのことなど。

自分の身体は自分のもので、自分で全てコントロールできるものである、という発想が近代の身体技法に関するベースになっているかと思います。
そこからの脱却を図ることが必要なのではないか?という本書の提示に対して、私などは経営の世界からどのような回答を導き出すことができるのか?
非常に興味深いところです。


また、最後に触れられている「視覚中心から触覚中心への移行」というお話はとても興味深いです。
テクノロジーの世界における触覚の問題など、今後は「触る」ということが重要性を増してくるのではないかと考えています。


アマゾン以外のネット書店などでは購入することができるようです。
宜しければぜひ。

2010年3月29日月曜日

近代スポーツのミッションは終わったか



超オススメです。


我々が生きている今の世界を考える上で、身体性を意識することは非常に大きな意味合いがあると思います。
その中で「スポーツ」というもの、あるいは「競技」「勝敗」「ルール」といったものがどのような意味合いを持つのか。
我々が当たり前と思っている常識というものが、実はそれほど当たり前ではないのではないか?という指摘が本書においてはなされています。


私は勝ち組、負け組などとという言葉で簡単に片付けられるようなものに興味はありません。
もっと深いレベルにおいて我々が生きる道はあるのではないかと思っています。


是非是非、ご一読下さい。

2010年3月19日金曜日

Harvard Business Review 2010年3月号



固定観念や既存のしきたりといったものから思考を解き放つ方法について特集されています。
調和を優先することの問題点、管理や権限を放棄することでの解決、デリバティブに対するイメージ、白と黒をはっきりとさせることが問題を解決するとは限らないことなど色々な種類の「定説」がひっくり返されていきます。


個人的に面白かったのは、特集広告の中で触れられていた「属する世界を複数にすべし」という記事と巻末の「東洋的思考のすすめ」です。
はっきりとした物差しを持っていることは、何かを決定するためには非常に有用なことは間違いがありませんが、その物差しでは測ることができない価値というものが物事には含まれている可能性もあるわけです。
その時に物差しを複数持っていたり、はっきりと決定するのではなく現状を見守るような行動に出ることがより良い結果につながることもあります。


無理難題に立ち向かわなければならないことが多い現在のような情勢にあって、物事を進めるために必要なのは「決断力」とは限らないのかもしれません。

2010年3月17日水曜日

大野耐一の現場経営



前回もご紹介した大野耐一さん自らの発言をまとめた本です。


「不良品を混ぜないことが低コストにつながる」などの提言は、正に現在のトヨタが陥っている状況を指し示しているのではないかと思います。
「小さな問題の内に潰しておく」ということを徹底することが本来のトヨタ方式の強みだったわけで。


また、本書の中では非常に会計的な考え方についても触れられています。
数字の上だけでの原価計算や効率性を測ることの無意味さが繰り返し指摘されています。
「沢山作った方が安く済む」というのは幻想に過ぎない、というのは中小零細法人においてこそ肝に銘じておくべき言葉かと。


現在のような不況にあってこそ色々な意味をもつ一冊です。

2010年3月4日木曜日

大野耐一 工人たちの武士道



今こそ読んでおきたい一冊です。

リコール問題に揺れているトヨタ自動車ですが、私が気になっていたのは「トヨタのシステムそのものが欠陥を含んでいる」という風潮の報道でした。
果たして本当にそうなのか?


この年始に読んだ大野耐一さんに関する本を読む限りでは、今回のようなリコール問題に発展させないためにこそ作られたシステムが「カイゼン」「カンバン」というものだったと感じていました。
本書を読んで、やはり今回の問題の根っこにあるのは、システムの不全ではなくシステムの不徹底だったのではないかと思います。


本書の中では、トヨタシステムに対する批判にも回答しています。
そしてまた、今回のリコール問題が起こるのではないか?という予言のような言葉も書かれています。


繰り返しになりますが、今こそ読むべき一冊です。

2010年2月1日月曜日

夜這いの民俗学・夜這いの性愛論



昔日の日本、農村においてどのような生活が営まれていたのか?
その実態は最早掴みようがない状態にあると言われています。

というのも、過去の実態を示すような資料が見事に存在しないためです。
特に性生活といった下半身に属するようなお話は見事に存在しません。


現在我々が抱いているような価値観は、ごく最近になって醸成されたものなのではないか?
「貞操を守る」「処女は婚姻相手に捧げる」
こんな習慣が本当に昔からあったのか?


本書は異端と言われた民俗学者、赤松啓介さんの書かれた夜這いに関する論文、というよりも実体験を交えた記録です。
その内容はもう鮮烈の一言です。

我々が持っている常識が如何に歴史が浅いものなのか?
過去の人々が持っていた身体感覚はどのようにして形成されていったのか?


大変面白い本です。
高岡英夫さん、三砂ちづるさんの本などと並行して読むとその面白さも倍増するかもしれません。

2010年1月29日金曜日

図解!売れる色の法則



色の使い方は商品の売れ行きに大きな影響を及ぼします。
手に取ってもらいやすい、リピートしてもらいやすい、高品質を演出出来る等々。
全く同じ機能の商品だとしても、色使いが違うと使う人間の体感は大きく変わります。

全く同じ重さの荷物を黒い箱と白い箱に詰めて運ぶ場合、白い箱に入れた方が圧倒的に重さを感じにくいのだそうです。
人は色彩から身体レベルで影響を受けているわけです。


本書は実際に売られている商品の色使いをサンプルにして、具体的な色の利用方法について説明をしています。
何となく眺めているだけでも、色々な使い方があるものだな~と楽しめるのではないかと思います。

2010年1月24日日曜日

究極の身体



高岡英夫さんが書かれた、スポーツの世界における達人と呼ばれる人々や、剣聖と称される剣術家などが持っていたとされる究極の身体についての本です。


ゆる体操が何を目指して作られたのかを理解するのにとても良いかと思います。
物理学的なお話が相当出てきますが、図解が多いので想像力を働かせれば理解出来るようになっています。

私たちが何となくやっている身体の動かし方に潜んでいる非合理性などが明らかにされます。
大きな塊として認識されている身体の様々な部位は、実はバラバラに分割出来るようになっています。
バラバラで、柔らかく身体を使えるようになることの重要性が繰り返し説かれます。


とても楽しめる一冊でした。
武道はもちろん、音楽や絵画といった芸術など身体を使って表現をする人には是非お読み頂きたい一冊です。

2010年1月19日火曜日

図解でわかる心理学のすべて



心理学に関する入門書です。

おススメな点は体系的な理解が進むことでしょうか。
心理学に関する話は方方で見聞きするのですが、どれも単発的かつ散逸的なため、体系的な理解が出来ずにいました。

本書はその点に注意を払っており、心理学の歴史からその内容まで、縦と横のつながりを意識して書かれています。


深い知識が手に入る本ではありませんが、入口としては中々良い本なのではないかと思います。

2010年1月13日水曜日

論語と算盤



是非全ての人に読んでもらいたい一冊です。
特に経営者には強くおススメさせて頂きます。


我々日本人は、その思想背景に宗教を持っていません。
それ自体が良い悪いということはないと私は思っています。
しかし、それ故の弊害として「強い価値観の裏付け」というものが個々人の中に育ちにくいのは間違いがないかと思います。
これがいわゆる国教またはそれに類するものを持っている国においては事情が異なります。
なぜなら価値観のベースが宗教的に定まっているからです。
そのベースに適合していれば良いこと、していなければ悪いことなわけです。


私は別に各人が信じるべき宗教を持て、と言いたいわけではありません。
しかし、行動規範たる評価軸は育てていくべきであると強く感じています。
そしてその評価軸は、誰からから押し付けられるのではなく、各人が自分の内側に育てるべきものです。


孔子、論語をそのベースにしろというわけではありません。
しかし、今から数十年も前に現在起こっている数多くの問題をすでに予見していた渋沢栄一氏の卓見に触れることは、自分の中心軸を育て上げるのに大変参考になるのではないかと思います。

2010年1月4日月曜日

タックスよ、こんにちは!



日本税制の現状や課題などがコンパクトにまとめられた本です。
今から数年前に書かれた本ですので少々古い情報も含まれていますが、十分実用に耐えうる内容になっているかと思われます。

国税と地方税の考え方の相違や、累進的負担と応益負担のバランスなど、非常に分り易くお話が進行して行きます。
途中の所得税や消費税の計算方法については中々わかりづらいかもしれませんが、それ以外の概略部分を読むだけでも十分に価値があります。

これから先、税制はその姿を変えて行くことが半ば必定と思われます。
どんな税制が望ましいのか、納税者一人ひとりが是非考えて頂きたい大切なお話です。

2010年1月2日土曜日

Harvard Business Review 2010年1月号



トヨタの生産・在庫管理方式を作った大野耐一さんの特集号です。

大野さんのやろうとしたしたことは、事業に身体感覚を身に付けさせることでした。
生産のスピードや流れについて柔軟性を持たせ、製品の作り過ぎを防ぐことで不要な在庫を抱えることを防ごうとしました。
経営者レベルまでいかなくても生産の現場において現在の生産量が適切なのか否かが判断出来るために考えられた仕組みがかんばん方式です。


多品種少量生産という課題にどう立ち向かうのか。
どこまでを自社で請け、どこから外注に出すのか。
受注から入金までのリードタイムを如何に短縮するのか。
これらのお話は大企業のみならず、小さな会社においてこそ拘るべきお話です。

身をもって難題に取り組んだ大野さんのお話は、現在の日本企業においてこそ有用なものとなるのかもしれません。