2010年7月14日水曜日

これからの「正義」の話をしよう



「正義」というものについて古今の西洋哲学者などがどのように考えてきたのか。
それを「歴史年表的」に追うのではなく、幾つかの「異なる立場」から類型化して紹介している本です。


幸福の最大化が良いことなのか?
選択の自由を確保することが大切なのか?
共通認識としての「道徳や美徳」を育成し、そこに根ざして生きることが望ましいのか?


まず、本書を通じて私が感じたことは「西洋人の西洋人たる所以」です。
本書はある意味、日本人には決定的に欠けているものを提示しています。
それは「世界のありようを決める」ということです。

この点につき、私は「だから日本人は駄目なんだ」という結論を出すつもりはありません。
むしろ「だからこそ良い」という思いを持っている人間です。


本書を読んだ上で改めて「日本が世界でスタンダードや主導権を握ることは無理だし、また、握る必要もない」という結論に私は達しました。

皆さんはどんな感想を持たれるでしょうか?
色々な意見が出てくる本だと思います。

2010年7月7日水曜日

生物と無生物のあいだ



貝殻と石ころのあいだにある違いはなんなのか?
生命があるものとないもののあいだにあるものはなんなのか?
本書はそんな疑問について、生命を一つの系(システム)と捉えてその特徴を明かしていきます。


この中で触れられているのは、生命が「大きな流れ」をもつ「時間軸を一方向にたどりながら折りたたまれている存在」だと捉えられています。
生命の中にある物質が好き勝手に動かず、一定の秩序をもってその形質が保たれているのは生命のもつ大きさと流動性がポイントになっているのです。


生命がどこまで機械と異なるのは、生命はパーツごとに細分化して考えることがあまり意味を持たないケースがあることです。
機械ならば「あのパーツを交換すれば機能が良くなる」といった議論もできますが、生命ではそのような「部品で捉えた理屈」は通用しないのですね。


エピローグでは「自然の流れ」の大切さが改めて指摘されています。
人間が生命を支配する、という内容ではなく「如何に生命というシステムが優れているか」という生命賛歌のための本です。

2010年7月4日日曜日

天風先生座談



ヨガ哲学に基づき構築された「心身統一法」という考え方に基づき多くの人に支持された中村天風さんの講演内容を作家の宇野千代さんが文章化したものです。


天風哲学と呼ばれる「心のあり方を中心にした人生の考察」について、その内容がざっくりと把握できるような本です。
「まず心ありき」ということを把握した上で、心から身体にフィードバックされることが確認されていきます。


「水が満タンに詰まった瓶」に新しいお湯を入れようとしてもこぼれてしまって入らない、という例えなどは「積み重ねていけば良くなるに違いない」と思いがちな我々にとって耳が痛いお話ではないでしょうか?
「間違った前提」に基づいている限り、良くはならないと断言しています。
文明人である我々の「前提としていること」を今一度疑うことを思考すべき時が来ているのかもしれません。

2010年7月1日木曜日

図解雑学 パラドクス



「私は嘘をついている」
この言葉の真偽は?


有名なこの例を始め、数々のパラドクスについて述べられている本です。
数学、論理学、哲学、果ては政治から愛の世界まで、世界はパラドクスに充ち満ちています。


ゲーデルの不完全性定理において指摘される「自己の無矛盾性を自己で証明することはできない」ということは、昨今語られる「絶対に儲かる!!」だとか「こうすれば上手くいく!!」といった多くの自称定理と呼ばれているようなものに対する強烈なカウンターパンチとなります。


自分が今信じている常識が本当に正しいのか?
そんな世界のあり方の部分まで揺さぶってくるのがパラドクスの存在です。

考えない練習



原始仏教系の「身体技術」について述べられている本です。
宗教に関して身体技術と言い切ってしまいましたが、それくらい本書に書かれていることは「身体的な部分」との関わりが強いように思われます。


現代人が罹っている「思考病」とでも呼べるような状況についてかなり説明が割かれています。
一度思考したことが脳に残り続け、それが方は状態になったときに「痴呆」と呼ばれる状況になるのでは?という推論は私にはとても納得がいくものでした。


周囲に見えるもの、聞こえるものをそのままに受け取り、そこから思考を無駄に展開させない。
観察結果をすべて自分にフィードバックさせようとしない。
ある意味、現在言われている多くの自己啓発系書物とは真逆のことを言っているように思われるかもしれません。


しかし、実は本当に変化の激しい時代にあっては、このように「あるものをそのまま受け入れる」身体感覚を構成しておくほうが適応しやすいのではないかと私は考えます。
純粋にビジネスにも役立つ技術ではないかと。

2010年6月28日月曜日

愚の力



浄土真宗の現門主、大谷光真さんが書かれた本です。

現代に生きる我々は、常に「志の高さ」や「意志の尊さ」、「努力の必要性」などを求められ続けています。
そして「自分の人生を自分の力で切り開いていくこと」の素晴らしさが強調されます。


しかし、その方向にばかり進んだ結果、明らかに「疲れ」が出始めているのが現状なのではないかと。
厳しい経済情勢、思い通りにはならない諸々のこと。
これらのことが原因で、人はいともたやすく「絶望」や「不合理」の世界に堕ちるようになりました。


「人は基本的に不完全だよ」ということを前提においている本書のような考え方は、実は非常に理に適っているのではないかと思います。
世界と自分との関係性を感じ取り、孤独に陥らないことが生きていく上で何よりの支えになるかと。


自分の内側をゆっくりと解きほぐしたい時にオススメの本です。
是非ご一読を。

2010年6月22日火曜日

漫画 歎異抄



浄土真宗の開祖親鸞の言葉をまとめた歎異抄(たんにしょう)の内容を、分かりやすいように漫画で表現したものです。
なんでも簡単にすれば良い、という風潮はそれなりの問題を含んでいるとは思いますが、それでもそれが何かのきっかけになることもあります。
要はバランスかと。


私自身は特定の宗教に対して信心を持っているわけではありません。
ただ、本書を読んでいて非常に納得がいく言葉もありました。

第二章の「他に方法は知らないし」といった考え方。
第三章の「我々はみな揃って悪人」という考え方など。

とかく、自分が頑張れば全てを管理し、コントロール出来ると思いがちな昨今にあって、非常に救いとなる考え方のように感じられました。


「努力しているのに報われない」などの徒労感を感じている方などにオススメです。