2009年7月18日土曜日

ものつくり敗戦 「匠の呪縛」が日本を衰退させる


日本は製造業の国であると言われています。
また多くの中小零細企業が「自社の技術の高さ」というものを誇りにしています。
確かに今から数十年前、「職人の技を持つ人間」によって日本は大きな繁栄を手にしていました。

そして、そういった技術の高さは「職人技」「匠の技術」といった言葉で表現され、それらは形式知や理論といったものとは真反対にある「暗黙知」「体験・経験主義」と理解されています。
本書は、その方向から産業を成立させることの限界を指摘しています。


「誰がやっても優れた成果が出せる仕組み」というものについてどう思われるでしょうか?
私は非常に良いことだと思うのですが、こと日本社会においてはこのような仕組みが好まれることはあまりありません。
「熟練した技を使ってその人にしかできない仕事を追求する」といった姿勢こそが「良い仕事」というように理解されているようです。
しかし、このようなものの見方は基本的に製造者側の理屈です。
そこには利用者側やシステム全体からの観点が全く欠落しています。

日本の「匠」や「職人芸」は見えるものにあまりにも多くの注意を払いすぎています。
しかし、現在求められているのは「全体としての最適解」や「仕組み」といった見えないものです。
これからの産業においては「見えないものを見ようとする努力」こそが求められています。
そういった姿勢が足りないからこそ日本ではソフトウェアやシステム分野において大きな成果を出すことができないでいるのです。

本書の中においても触れられていますが、本来日本では「見えないものを見る」ことについて多くの研究がなされてきました。
「わびとさび」「空」「観は強し見は弱し」
これらはすべて目に見えないものを感じようとする言葉です。
そして「目に見えないもの」は合理からだけでは構築することができません。
そこにこそ「体験・経験・矛盾」といった非合理的なものが含まれています。

日本企業は「合理を追求すべき分野」「非合理を追求すべき分野」を見直す必要があります。


良書です。
企業人、研究者、経営者問わず、ぜひ読んで頂きたい一冊です。

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